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中嶌君と

DAY25 美しい村連合・山梨県道志村 幻のスモーキー手前味噌&手前醤油を復活するアニーの村


人口約1,800人*。山梨県の最東端に位置する小さなこの村は、両側を山に挟まれ、町の中央の谷間を道志川が流れる。斜面のいたる所から水が湧き出し、道志川に注ぐ様子は「葉っぱ」の葉脈と形容される。

道志村地図(出典:道志村観光協会HP)

美しい村選定理由

美しい村選定理由は「道志七里」、「おきゅうだい」、「的様」の3つ。道志村の中心を通る国道が、かつて富士山への近道だったらしく、1里毎に道標が立っている。これが「道志七里」(どうししちり)。まあ、これは普通の道である。むしろ、村にはこの道しかなといっても過言ではない。

2つ目のおきゅうだい。この地域は未だ、集落毎に神楽が残っており、お祭りの時期は一軒一軒お宅を訪問して獅子舞を踊るという。おきゅうだいは、その地区毎に残る風習の一つで、劇のようなものらしい。拝見することはできなかったが、地区の住民で歴史保存会を立ち上げ、保存活動が評価されていると聞いた。

3つ目の的様(まとさま)。清流の中にある、小さな花崗岩で、白い輪のような断面が、あたかも「的」のように見えることから、こう呼ばれる。源の頼朝の放った矢がここに刺さったのだとか。今回は時間切れで見られなかった…というか、見忘れてしまったが、パワースポットとしても知られているらしい。

道志川

横浜市との深い関係
一般的には、キャンプのメッカとして知られるこの村、道をすすめば年季の入ったキャンプ場の看板が次々と出てくる。山梨県内でも秘境と呼ばれ、立地的にも県内より、相模原市・横浜市・八王子辺りからのキャンプ客が多いそうだ。

中でも横浜市との関係が密接なのが特徴。時を遡ること100年程、横浜市が市の水源として道志の上流域の森林を買い取ったため、村内の40%くらいの森林が横浜市有林。それもあって、一時期は越県合併の話もあったほど。横浜から航海にでる船に積み込まれたのが、この道志の水。純度が高く「赤道を越えても腐らない水」と言われたそうだ。現在でも、横浜では道志の水「はまっ子どうし」が購入できるらしい。横浜市民には多彩な割引メニューが用意されているので、是非一度足を運んでみてはいかがだろうか。

醤油づくり文化
さて、美しい村認定理由より何より、私たちがこの村で出会って素晴らしいと思ったもの、それは、各家庭で麹から、味噌、醤油までつくってしまう生活の中の醸造文化。と、どちらかというと、それを復活させようと奔走している中嶌君(中嶌拓哉さん)だ。

この村は、その不利な交通条件のため、自給自足の農業を営まざるをえなかった。味噌や醤油を自家で醸造する文化も、それが理由らしい。まず驚いたのが、一家に一穴**、「穴蔵」を持っているということ。その穴蔵で薪を燃やし、中を暖める。そこにお米(醤油の場合は小麦&大豆)を一晩置いて、麹をつくる。その麹で味噌・醤油を仕込む。二年寝かせたものを、醤油の「搾り屋さん」が、各家庭で仕込まれた醤油をしぼって回る…というのがこの村のサイクルだったそうだ。

穴蔵一家に一つある穴蔵

しかし、その「醤油搾り職人」が、3年前に他界した。村の人の多くも、それをきっかけに醤油づくりを辞めてしまった。中嶌君は、人々の記憶をつぎはぎ、協力を得て、搾り器を再現。つけっぱなしになっていた醤油のもろみを提供してもらい、醤油搾りを再開した。

醤油搾り機にもろみをいれるどろどろの醤油のもろみ(道志村ではこの状態をミソという)をこの箱にいれ、上に板を置いて、ジャッキ(この村ではキリンと呼ぶ)で上から徐々に圧をかけると、下から醤油が染みでてくるというしくみ。醤油搾り機

「醤油のアニー」中嶌君の人間力
さて、中嶌君のこと。彼は地域おこし協力隊員として、同じ山梨県出身ではあるものの、縁もゆかりもなかった道志村に1年半前に赴任。それまでも発酵文化に強い興味を持っていたこともあり、この地域の醸造文化をリサーチし始めたそうだ。その、リサーチ力がすごい。人間力というべき域に達している。もともと大学の頃、社会学専攻でフィールドワークを経験したというのが、現在に効いているのか、地元の方の懐にするりと潜り込み、するすると情報を引き出してくる。あたかも、昔から村に住んでいたかのように、村のことをよく知っている。

味噌、醤油の原料となる、米、大豆、小麦も、人から田畑を借りて、自らつくっている(一人で7反も管理している!)。更に村の猟友会(最近狩猟免許取得)、消防団、青年団に加入、お祭りのお囃子の笛吹き(子供の頃から地元のお祭で習得)、ひいては村中の蜂の巣取り(子供の頃から蜂の子を食すべく蜂の巣狩りをしていた経験者)までこなす。そうやって、各所に顔を出すことで、村の人たちが興味をもってくれるのだという。

食堂のテラスから中嶌君の田んぼランチを食べた食堂*から、中嶌君の田んぼを一望。

「おめぇ、どこのあにぃ(=兄キ)だ。」村の人とのファーストコンタクトはいつもこの質問から。だんだん仲良くなって、お家へ呼んでくれる。たくさんのお土産をくれる。「この村に来てから、まだ一度しか野菜は買っていない」、というコメントからも、その食い込みぶりが窺い知れる。しかし、未だに名前は覚えてもらえず、現在、村の中での中嶌君のニックネームは「醤油のあにぃ」となっている。村の人は、彼のお陰で醤油がもう一度搾れることが、相当嬉しいのだろう。

佐藤さんの手づくり酒饅頭
各家庭にあるという、その穴蔵をみせてもらいに、中嶌君の案内で、佐藤さんのお家へ(ちなみにこの村の約4割の住民は「佐藤」姓。自治体あたりの佐藤さん率は日本一だとか)。穴の中はひんやりしている。夏場、果物はここで保存する。天然の冷蔵庫だ。冬は逆に保温性に優れており、あたたかいのだという。
穴蔵の中
「お茶でも飲んでいく?」と、佐藤さんちに上がり込み、小一時間程お話を伺った。その間、近くのおばあちゃんが開け放たれた玄関からこちらを覗き込む。「お茶でも飲んでいったら?」と、仲間が増えていく。佐藤さんの手づくりの酒まんじゅうをいただきながら、醤油のあにぃ中嶌君の米づくりへのアドバイスやら、誰かのうちの床から竹がのびてきた話やら、村の人のニュースが飛び交う。

酒饅頭
佐藤さんに、米がとれないこの地域では、昔はうどんが主食だったと聞いた。子供の頃は毎日のうどんこねは子供の仕事。にゅるにゅるとうどん絞り出し器でうどんを切る。これまた一家に一台ある。それを自家製の味噌で野菜と煮込んで食べたそうだ。

米麹常にストックされているという米麹

スモーキー味噌
中嶌君曰く、「道志村の味噌も醤油も、薪の香りが特徴。」穴蔵で薪を焚いて部屋を暖め麹をつくるプロセスで、麹に香ばしい薪の香りが移るのだ。どうしても食べたいとお願いして、夜、中嶌君が家で仕込んでいる、お醤油とお味噌をいただきにあがった。
幻の醤油
まず、お醤油。キュウリにつけて、普通のお醤油と味比べ。ピリッと舌に刺さるような塩気はなく、馴染むような甘味と、薪の香ばしさがある。煮物に最適と聞いたが、確かに合いそう。煮物にすると色も変わるらしい。食べてみたい。早く商品化にこぎ着けてほしいが、今のところつくった人のみの贅沢となっている。来年1月4日に、町の人の醤油搾り大会をする予定だそう。そこでは、市場には出回らない、加熱処理前で、まだ濁りのある、一番搾り醤油なるものを味わえるらしい。

醤油樽
これが、来年絞り出す醤油を漬け込んでいるところ(もろみ)。道志村では、これを底からかき回すのも、子供の仕事。近くにあったキュウリをこれにドボッとつけて食べるのが子供の楽しみだったというのは佐藤さんから聞いた。私もドボッとやってみる。コクがあって、醤油よりこれのがおいしいくらいだ。
もろみ醤油(みそ)
そして、最も驚いたのが、味噌!樽を開けただけで、本当に薪の香りが漂う。そのままちょっと舐めさせてもらったが、まるでスモーク味噌!これで味噌汁をつくったらどうなるんだろう!!味噌や醤油を販売するためには、調理環境等、保健所の規定をクリアせねばならないため、家庭でつくるこの素晴らしい風味のスモーク味噌は市場に出回らない。知り合いに頼んでこそっとつくってもらうしかないそうだ。こそっとはいえ、名人になると、人に頼まれて600kgも味噌を仕込むらしいが、それも無理はないと思える美味しさだった。

味噌

村の産業ークレソンの栽培
さて、醤油づくしの記事となってしまったが、村として一押しは、醤油等ではなくクレソンなので、一応ご紹介。山の谷で平地が少ない道志村では、農業より林業がさかんだったが、急斜面が多く、今では林業も下火に。むしろ手入れができない林が増えているのが問題だそう。狭い面積でも高収入を得られるということで、冷たい清流を活かして、田んぼをクレソン畑に転換している人が多く、クレソンの出荷量は日本一。道の駅はクレソン蕎麦、クレソン飴などクレソングッズでうめつくされている。確実に、ここは村の文化を活かしたスモーク味噌と醤油を並べるべきだと思うが…

クレソン畑

日帰り温泉、道志の湯
最後は温泉「道志の湯」へ。ここも、別の地域おこし協力隊員が中心となり、間伐材の薪ボイラーでの加温に挑戦しているらしい。が、やはり急峻な斜面からの切り出しのコストや安定供給の面を考えると、まだまだ課題も多いよう。夕方になると地元の人が多く集まる温泉(なぜか後払い制)で、泉質は硫酸塩泉、3セク施設にありがちな塩素&循環温泉だけど、清潔ではある。

まとめ
道志村は、美しい村資源の自然の景観やキャンプよりなにより、風前の灯火と化していた自家蔵での手前味噌&醤油文化に目をつけ、ふたたび明かりをともそうとしている醤油のあにぃ、中嶌君が一番の魅力の村であった。一人の若者が、道志村程の小さな自治体に与えるインパクトの大きさを感じずにはいられない。

因に、1月4日の醤油搾り実演会の日に、スモーキー味噌の仕込みも教えてもらうことになった。新年は道志村に決定だ。発酵食品ファンのみなさま、是非一緒にいきましょう。(マ)

醤油のあにぃ

*国勢調査の推計人口2014/7/1

*ランチをした食堂は全然ウェブに情報がないけれど…「せせらぎ」というお店。中嶌君がおすすめしてくれたthe 地元の食堂。眺めもよく、店内もログハウスチックにおしゃれで、山菜の小鉢等サービス満点で、感じのよいお店です。
**お邪魔した佐藤家のように、一家に一穴のところもありましたが、一般的には数軒で一穴を使っていたそうですが、昔は今よりもたくさん穴蔵があったそうです。

  • せせらぎ
    山梨県南都留郡道志村下善之木10325
    TEL: 0554-52-2663
  • 道志の湯
    山梨県南都留郡道志村7501
    TEL.0554-52-2384

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