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藤原さんと2

DAY29-2 美しい村連合・長野県南木曽町 町並み保存のパイオニア妻籠宿で学ぶ


長野県南木曽町(なぎそまち)にある妻籠宿は中山道の42番目の宿場として栄えた町。そしてここは、南木曽町が美しい村連合に加盟するはるか昔から、重伝建にも指定されている。指定されているどころか、重伝建発祥の地(正確には発祥ではなく、制度改正)ともいえる大重鎮である。

南木曽町マップ(出典:wikipedia)↑南の方の黄色いところが南木曽町

まず町歩き
妻籠のメイン道路は、基本的に歩行者優先、駐車禁止。従って、蘭川(あららぎがわ)を挟んで、町の対岸にある駐車場に車を停めて、散策開始。高札場(江戸時代の公式な瓦版のようなもの)のある、少し上の方からぶらぶらと下ってくる。さすが集落まるごと重伝建。美しい町並みがかなり長く続いている。派手な看板もなければ、のぼりも殆どない。この徹底っぷりはすごい。土曜日だというのに、暑さのせいか観光客はまばら。日本一周中、多くの観光地で中国人が目立つ中、ここではもっぱら欧米人の観光客だったのが印象的だった。高札場
本陣・脇本陣
宿場町である妻籠で、公家、大名、幕府の役人等が宿泊する最も格調高い宿が本陣。そのワンランク下がったのが脇本陣。共通券を購入して、脇本陣から見学するのがおすすめ。脇本陣では、チケットを買えば、係の人が各部屋や道具の解説をしてくれ、ついでに本陣の見るべきところなんかも教えてくれるからだ。
脇本陣では説明を聞くことができる
脇本陣横には、資料館がついていて、当時の宿泊客数の推移や、このあたりで主要産業であった木曽檜切り出しの様子等が学べる。出口付近には映像コーナーもあって、妻籠の保存運動について等要領よく学べるようになっている。
木曽檜を切り出す様子
妻籠観光協会 兼「妻籠を愛する会」事務局訪問
町の真ん中の枡形付近にある観光協会。ぜひ、ここの藤原理事にお話を伺ってほしい。そもそも、なぜ、こんなにも妻籠の町は保存状態はいいのか。どういう経緯で町並みを保存することになったのか。藤原さんに伺った。「小林俊彦(こばやしとしひこ)という、なんというかな、一度見たら忘れられない顔の強烈な人物がいたんだよ。今でもうちの会長をやっているけどね。」と、尊敬の念がにじみでている。

町並み保存のパイオニア小林俊彦氏について
全然聞いたこともなかった、小林俊彦さんという方。彼は当時村役場勤務の獣医だったらしい。村の人が署名を集め、彼のところになんとかしてほしいと頼み込んできたのがきっかけで、妻籠の保存に奔走することになった。高度経済成長の中、時代は新しいハコモノを建てることで湧いていたが、小林さんは、徹底的に保存することを選んだそうだ。

当時、住民の中で反対する声ももちろんあった。そこで小林さんが提案したのが、「文政風俗絵巻之行列」というイベント。住民が江戸時代の衣装を着て妻籠の町を歩く、いわば仮装行列だ。妻籠の町並みと相まって、風情たっぷりの行列には観光客が集まり、この行列は年々参列者が増加。現在でも妻籠で最も人気のあるイベントとして続いている。わからないなら、体感して理解してもらうという、小林さんの天才的な手腕に驚く。

文化文政風俗絵巻(出典:木曽路.com

重伝建前夜
小林氏、相当面白い人物のようで、保存の動きを当時の国の役人にもレクチャーする機会を得たときのこと、「君の話はもっともだ。君の村には現在何が最も必要だ。今すぐやろう。」と言われ、電線の撤廃を頼み、当時進んでいた電柱工事を一気に中止させたらしい。当時から電柱=景観にとってマイナスであるという発想があったセンスに脱帽である。

そんなこんなで、歴史的な町並みを保存する他の仲間(白川村や京都、角館等)とともに、文化財保護法の改正を実現する。それまでは、寺社や城等、いわば上流文化しか対称ではなかった文化財というものを、庶民の生活空間まで包含する、より広い概念として定義し直す内容のもの。1976年、制度改正後、第一号認定の一つとして、妻籠宿が認定された。
IMG_8700
保存の仕組み「売らない・貸さない・壊さない」
妻籠宿は、景観を守るために、町並みだけでなく、周辺の山林まで含めた約1477haの指定。日本の重伝建の総面積の約37%にもあたる桁違いの指定区域を誇る。一方で、妻籠の場合、国の重伝建認定は、単なる後追いでしかない。住民の保存活動が先攻していた。妻籠人は生まれたときから妻籠を愛する会会員となる。会費はゼロ。「売らない・貸さない・壊さない」の3原則を掲げ、全て住民が主語の会員規約となっている。

保存行為はしばしば(短絡的にいえば)経済的に非合理的な判断となりかねず、住民の合意をとるのがさぞ難しいのではないかと思う。その辺りはどうしているのか。「住民が納得するまで全員で、とにかく話し合うようにしている。」と藤原さん。「議論し尽くす」という姿勢は、なんとなく日本っぽくないですね、というと、「もしかしたら、戦時中にドイツ人(ドイツ語の先生?)数世帯が妻籠に疎開にきていて、古文書や古い道具の収集を行ったことがあった。その影響もあるかもしれないね。」と。正解などない話ではあるが、もしゲルマン的議論文化が、町を形成する精神的な素地になっているとしたら、相当面白い話だ。
妻籠宿周辺
徹底した商業主義の排除
ここまで町並みが保存されているもうひとつの要因は、徹底的な保存重視。商業主義的な価値観に迎合しないという姿勢。CM、映画のロケ禁止。あくまで住民や歩いてゆっくり観光する人のための空間であり、その人たちの時間や場所を制約してまで撮影などに使ってほしくないからだという。多くの自治体がフィルム・コミッションを設立し、ロケ誘致合戦を繰り広げる中、真逆を行く。

更に、当然、世界遺産登録の話も上がっているが、現時点では必要ないと判断しているそうだ。毎日何万人も押し掛けてこられたら、忙し過ぎて住民自体も町を楽しむ心を失ってしまう。観光に来てくれた人が楽しめるためにも、お客さんはほどほどの人数がよいと考えているそうだ。数字では説明できない、感覚的なものを大切にしている。躍起になって右肩上がりを目指すのではなく、人間本意な哲学が貫かれているように感じた。

妻籠宿

藤原さんの話
16時半頃、ノーアポで突然乗り込んだ私たちに、定時を大幅に過ぎて、熱心に説明してくださった藤原さん。もともと保存運動に熱心だったわけではなく、普通に会社勤めをしていた。たまたまフランスに旅行したときに、パリの町並みの歴史に驚いたのがきっかけで、いつかは自分の生まれた妻籠をそんな風に守る活動に携わりたいと思うようになったそうだ。一見厳しそうに見える藤原さんだが、学びたいという人は大歓迎で、大学の卒論等にはできるだけ協力しているそう。こんな風に、妻籠を愛し、語り継ぐ人が、後に、続いていくといい。

藤原さんと

温泉、そして夜の町並み
藤原さんのおすすめであららぎ温泉にも立寄り。妻籠の坂を車で5分ほど登ったところだ。妻籠の雰囲気はまるでないが、地元の人によく利用されている雰囲気のお風呂。リーズナブルな食堂も併設。閉店時間の早い妻籠では重宝されている存在のようで、こちらもお客さんが多かった。
あららぎ温泉
風呂上がりにもう一度、夜の妻籠をお散歩。街灯はなく、灯籠のみ。この時間もまた趣があって素敵だった。重伝建中の重伝建、妻籠。住民の保存の努力の話に、感極まって、私は2、3度涙ぐんでしまった程であった。多くの場合、「ビジネス化すること」、「儲けられること」がまちづくりの目標として掲げられている現在、妻籠の取り組みは別の軸を提示してくれている気がした。

夜の妻籠

【備忘】欲を言うなら、あとはアスファルトが石畳か優しい色になったら更によいと思ったが…何か、アスファルトを貫いている哲学があるのだろうか。次回はそこも聞いてみたい。

  • 妻籠観光協会
    長野県木曽郡南木曽町吾妻2159-2
    TEL:0264-57-3123
    OPEN: 8:30~17:00
  • あららぎ温泉
    長野県木曽郡南木曽町吾妻2333
    TEL:0264-58-2365
    OPEN:  10:00-20:00
    CLOSE:毎週火曜日・祝日の場合は翌日

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