© coinaca/コイナカ All rights reserved.

伊根町舟屋

DAY54 美しい村連合・京都府伊根町 奇跡的な地理条件が可能にした舟屋というライフスタイルとユニークな景観


京都と言えば、寺院や古い町並みを連想しますが、京都府って意外と縦長で、実は日本海まで続いているんです!伊根町はそんな京都の北端、静かな湾にあるユニークな漁村。日本で最も美しい村連合のひとつであり、国の重伝建にも認定されている。伊根町

写真でみただけでも、海に浮かんでいるような一風変わった町の景観が気になっていて、楽しみにしていた場所のひとつだった。

船屋群について
伊根町の重伝建範囲は非常に広く、妻籠宿に次いで日本で2番目。建物としての舟屋群だけでなく、その背後の「魚付林」まで含まれているからだ。

舟屋(ふなや)とは、2階部分に部屋がついた船のガレージのこと。部屋といっても、もともとそこに住んでいる人は少なく、倉庫としての意味合いが大きかったそうだ(なので未だに舟屋の方にトイレがない家も多いらしい)。

船屋の裏に母屋が別棟であって、ワンセットになっているのが普通。船屋は海に向かって妻入り(屋根のハの字が正面)、その後ろに平入り(屋根が並行な方が正面)の母屋があるというのが特徴。
伊根町この舟屋と母屋の間の微妙な空間は、昭和初期にそこに道路が整備されるまでは、あくまでも人んちの庭だったそうだ。つまり、海上交通が主であったため、村には道がなかったのだ。

交通手段が違えば、町の形が変わるのは当然のこと。生活様式と地形の密接な関係が、景観をつくりあげているのだということを、この町では身を以て感じられる。
伊根浦
しかし、数ある漁師町の中でも、なぜ伊根だけに舟屋があるのか。それは、奇跡的とも言える地形にある。日本海に背を向けるようにグッと入り込んだ南向きの入り江、さらに入口には青島。伊根浦は、ものすごく穏やかな良港なのだ。可住面積は非常にかぎられているため、このように各家庭で舟屋を持ち、日常使いするようになったようだ。

なぎさ
伊根浦に到着したのは夕方だった。こんなにユニークな伊根町だが、いかんせん道が細く観光バスなど入る余地はないし、公共交通機関でくるには不便な場所にあるためか、観光地化は進んでいない。舟屋という面白さを活かして、規模の小さな舟屋宿はあるようだけれど、宿泊しない私たちのような旅人は、夕飯を食べる場所探しには苦労する。なぎさ

暗くなってきた通りに赤提灯の居酒屋さんを発見、「干しなまこ丼」と大きく書かれている。中国で「黒いダイヤ」と称される、その食べたこともない高級食材に惹かれて、ふらりと入ったのだが、非常にフレンドリーなご主人の髙橋さんに色々と面白いお話をお聞きすることができた。

髙橋さんは、商社を早期退職、移住先を探して世界中を歩き回った後、伊根町に落ち着かれたそうだ。お店だけでなく、商社時代のネットワークを活かして、干しなまこと干しあわびの製造・販売を手がけている。
干しナマコ丼小さなナマコは中国人には人気がない、と言う訳で、本物のナマコからナマコストラップをつくってみたり、お茶目である。小さい、といっても、ナマコは干すと元の5〜10%に縮んでしまうので、私たちが一般的に目にしたことのあるナマコはこんな感じになってしまうんでしょう…。ナマコストラップ干しナマコはその外観とは裏腹に、口の中でふわりと解けてしまうような食感。味はそんなにないけれど、奥様特製、竹の子と和えたあんかけオイスターソースと非常によくあっていて美味しかった。ちなみに干しナマコ丼はランチでも食べられるようだ(ただし一日限定5食!)。なぎさにて

夜なら、クジラやナマコの卵巣を干したバチコなど、珍味が揃う。伊根に来たら、まず髙橋さんのお店で伊根の見所を教えてもらうと、スムーズに回れるのでおすすめです!観光案内所より血の通った情報が手に入りますよ〜。

漁港の魚選り作業
翌朝は、朝7時頃から、髙橋さんに教えたもらった伊根浦の朝市へ。町内放送で漁船が帰港した連絡がはいると、人々が集まってくる。定置網にかかった様々な種類の魚がドドーッと揚げられ、ベルトコンベアに乗ってくるのを、地元のおばちゃん、おじちゃんが選り分けていく。さすがベテラン、一瞬で魚の種類が見分けられる。にしても、定置網には小さな魚もかかってしまっていて、ゴミのように扱われてちょっともったいない…。伊根浦朝市

非常に豊かな漁場で、新鮮で美味しい魚が売りの伊根だが、町には魚屋がない。地元の人も、この朝市にバケツ持参で買いにくるのだ。選り分け作業を横で、ピピッと好きな魚をバケツへ。それを市場の隅で測って購入する。観光客は一体全体どのように買えばよいのか検討がつかないシステムだが、一応ウェルカムということにはなっているので、勇気をだして漁港の人に声をかけてみよう。
はかり売り
油屋
伊根の道の駅は、伊根浦をぐるりと一望できる絶好のロケーションにあるのではずせないスポットだ(ただし、商品ラインナップに特筆すべきものはない。)ランチは道の駅併設の油屋さんで。たぶん、2階席からは海を見ながら食事ができる。道の駅には実に良く似た海鮮食堂が2つはいっているが、周辺での聞き取り調査によれば、おすすめは油屋とのこと。奥伊根の旅館、油屋の料理人さんが最近オープンしたお店なんだとか。

注文した海鮮丼は、先の朝市で仕入れた魚だそうで、さすがに美味しかった〜!!!平日なのに満席。私たちが出る頃には行列ができていたので、早めに入店した方がよいかも。

油屋ランチ
海上タクシー
町の景観、を海から楽しむなら手段は2つ。遊覧船と海上タクシーがある。海上タクシーの方が値段はやや高いけれど、小回りがきき、ガイドもしてくれるのでおすすめ。海上タクシーは5つ程あり、それぞれに個性があるらしい。

今回乗せてもらったのは、元祖海上タクシーの成洋丸さん。「とにかく話がおもしろいから」と、なぎさのご主人におすすめいただいたのだ(船屋の中まで見学したい場合は、亀島丸が人気のようです。)海上タクシーに乗るには直接電話してもいいし、道の駅併設の観光協会から申し込むこともできる。当日予約OKなのがありがたい。
海上タクシー
小さなボートではあるが、参考になるような写真もファイルに挟んでくれてあり、所々エンジンを止めては、解説を加えてくれる。伊根浦の家々も昔はなんと茅葺きだったそう!それはまた壮観だっただろう。下の写真が、その伊根浦の姿を一変させたという、空前のブリ景気の頃とのこと(成洋丸さんの写真ファイルより拝借)。
昔の伊根
海から見た舟屋内部。だいたいこのような斜めの坂で、船が簡単に小屋の中に引き上げられるようになっている。昔は木製の船しかなく、海につないでおくとすぐ痛んでしまったため、このような船の倉庫が発達したそう。ちなみに、写真左がお祭専用の木舟とのこと。
舟屋内部
ここが湾のどん詰まりの舟屋密集エリア。伊根では、朝ドラ「ええにょぼ」(=べっぴんさんという意)や寅さん、釣りバカ日誌をはじめ、多くのバラエティ番組の撮影が絶えないそうだが、ここはしばしば使われるスポットらしい。

伊根浦
成洋丸の運転手のおじちゃんの本業は漁師。昼の時間帯、やることがなく、船が空いていてもったいないと思い、海上タクシーを始めたそう。現在は息子さんがUターンしてきて、舟屋を改装、1日1組限定の船屋宿を始めたため、それも手伝っている。ちなみに船屋に泊まれる宿は10軒程あり、価格も様々。息子さんの経営されている『蔵』は非常に人気があり2ヶ月先まで予約でいっぱいとのこと。

向井酒造
次に訪問したのは伊根で唯一の酒蔵、向井酒造。生憎、夏は蔵が空っぽの時期でお会いすることはできなかったが、こちら、女杜氏さんがいらっしゃるという珍しい酒蔵!伊根で育てた赤米を使ったお酒は、色もピンクで可愛いし、味もワインのようで飲みやすい。こちらで伊根名物、鯖のぬか漬け「へしこ」も購入。
向井酒造
台湾茶専門店 靑竈
お酒を飲んだあとは、そのすぐはす向かいの靑竈(chinzao)にて本格台湾茶をいただく。緑茶ではなく「青茶」を楽しむという珍しいカフェ。「舟屋で本当においしいお茶が飲めるから是非」と、なぎさの髙橋さんから教えてもらったお店だ。奥内の畳の部屋でもお茶がいただけるが、断然おすすめは、舟屋を改装してつくった秘密基地のような空間!いつまでも静かな海を眺めていたくなる、心地よさだ。
靑竈想像以上に、ものすごいこだわりのお店で、店主の橋本さんにそれぞれのお茶の特徴を解説していただきながらゆったりと飲む。青茶は緑茶と紅茶の間くらいの発酵茶で、最大の特徴がその香り。

一番茶を、小さな壺のような形の聞香杯(もんこうはい)に入れてから茶杯に移す。聞香杯では香りだけを楽しみ、味は茶杯で、と別々に楽しむのだ。緑茶と同じ茶葉のはずなのに、微妙な発酵の差で、こんなに香りがたつものか、と驚く。そういえば、このカフェは海のすぐ横だけど、全く潮臭さが茶の香りを邪魔しない。伊根の海は無臭なのだ、ということにもふと気づく。
靑竈セット

初めてだったので、飲み比べセットを注文した私たち。
「お時間は?」と聞かれたので、「いくらでもあります」と答えると、なんと、3時間近く、懇切丁寧に色々なお茶を淹れてくれた!!結局、日も暮れてしまい、なんとその晩は泊めてもらうことに。
夕飯
夜は橋本さんに、へしこの色々な食べ方をご指南いただいた。写真はへしこ調理前。私は炙りが一番好きでした。
へしこ
アオリイカ釣り
靑竈から見える堤防で、アオリイカ釣りをしている人たちが見えたので、私たちも夕飯前に、ちょっと釣りにでた。さすが魚付林パワー!小さなフグやタイが、針から外すのが面倒なくらいかかる、かかる!!
伊根で釣りしかし、イカは釣れず…。横にいた大阪からきたというおじさん達のバケツを恨めしそうに見ていたら、一杯くれた!
アオリイカ靑竈に持ち帰った小さな魚たちは、橋本さんが店の前の海から引き上げた、このカゴに入れられ、また海に沈められる。カゴは簡単な罠になっていて、小魚や食べ残しをオトリとしてカゴにいれておくと、タコやら他の魚がかかるらしい。おもしろい!カゴ

よく見ると、舟屋の多くにはこのカゴのロープが垂れ下がっている。交通手段は船から車に変わったが、未だに伊根の人たちの暮らしが海と密接につながっていることを感じる一コマであった

新井崎港(にいざきこう)
翌朝は、舟屋の窓から朝日を拝むという贅沢な目覚め。伊根港からもう一つ北の新井崎というところにも小さな漁港があり、そこにはブリ景気で栄える前の、昔の伊根浦にあったような古い舟屋が残っていると聞いていたので立ち寄ってみた。

古い舟屋さらに、これが茅葺きだったのだろう。新井崎港でも朝市があり、こちらの集落の人のがちょっと優しいとの噂も聞いたので、何日か滞在する際はこちらに足を伸ばしてみてもよいかもしれない。近くには、新井崎神社もあり、中国から不老不死の薬を求めて航海に出て、日本にたどり着いたという伝説のある徐福(じょふく)という人物がたどり着いた場所とされている。
新井崎漁港
浦嶋太郎伝説
さらに北に走った本庄という集落に、かの有名な浦島太郎を祀った浦島神社(宇良神社)があるというので行ってみた。現在は港からは慣れた内陸部にあるが、以前は本庄湾がこの近くまでえぐれていて、海辺に建っていたらしい。

本殿内には玉手箱や絵巻も納められているとか!浦島太郎伝説は各地に伝わり、日本にいくつか類似の神社もあるようだ。が、上記の徐福の話も考え合わせると、当時この辺りに住む人は、海というのはなにか外国や異界との接点といったような神秘的なものと考えていたのだろうか。
浦島太郎神社

まとめ
伊根町には、訪問前の期待を裏切らない、「ここ、日本?」と思うような、舟屋がひしめき合う風景が残っている。町の人たちにとっては当たり前過ぎて、何がすごいのかわからないらしく、過度に観光地化されていないのんびりした空気もまたよい。

日本中の多くの町が均質化していると言われる中で、今後ますます伊根町のようなユニークな町の存在感が増し、脚光を浴びるのではないかと思う。そうなっても、伊根町には、観光客に迎合して変なハコモノや、派手な看板やのぼりで町を埋め尽くしてほしくないし、この記事を今読んでくださっている方には、あまりに有名になりすぎる前の、今の伊根町に、ぜひ足を運んでみてほしいところです(既に、昔の伊根町からは形が変わり過ぎているという指摘もあったくらいなので、急いでください!)。


キーワード,



関連記事

田尻家

DAY56 美しい村連合・兵庫県香美町小代地区 99.9%の国産黒毛和牛はここから生まれた!和牛のふる里の人々は温かく親切だった 

美しい村連合 兵庫県 香美町小代(おじろ)地区。ここは珍しく、地域自治区単位で連合に加盟している。2005年の3町合併(美方町、村岡町、香住…

昔の小坂町

DAY7 美しい村連合・秋田県小坂町 生きた没落の歴史と底力を語る町、もっと語ってほしい町

小坂町は、他の美しい村とは一風違った町である。美しい村連合加盟村には、それぞれ加盟理由というのがあり、一般的には自然や農村の営み、史跡やお祭…

おばばのお話

DAY93 美しい村連合・宮崎県椎葉村 クニ子おばばと不思議の森へー大切ななにかを思い出せる場所

「クニ子おばばと不思議の森」というNHKスペシャルの番組を見て以来、いつかは訪問してみいと思っていた村、宮崎県 椎葉村(しいばそん)。宮崎県…

藤原さんと2

DAY29-2 美しい村連合・長野県南木曽町 町並み保存のパイオニア妻籠宿で学ぶ

長野県南木曽町(なぎそまち)にある妻籠宿は中山道の42番目の宿場として栄えた町。そしてここは、南木曽町が美しい村連合に加盟するはるか昔から、…

本川市長と

DAY35-3 富山県氷見市 旅の醍醐味はハプニング…にしても、はちゃめちゃなハプニングに見舞われた日本初・体育館リノベーション市庁舎視察

この4月末の退職前、私は銀行の調査部門で、地方自治体の公共施設関係の調査を担当していた。高度経済成長期に、一気に整備された日本のハコモノ・イ…

ページ上部へ戻る