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阿部さんと

DAY 60-61 美しい村連合・島根県 海士町 人口の20%が移住者の島!その秘訣は産業振興と教育と…??


島根県から、フェリーで約2時間半。お世辞にもアクセスがいいとはいえない隠岐島諸島の一つ、海士町は1島1町の島だ。その便の悪さにも関わらず、ここ11年間で人口約2,400人(2014年10月現在)の2割に当たるIターン者数を誇るという脅威の島。各種メディアでもよく取り上げられているので、耳にしたことのある人は多いだろう。美しい村連合に加盟しているということもあるが、そうでなくても是非、一度足を運んでみたいと思っていた島だった。

海士町マップ(出典:隠岐レンタリース

巡りの輪
今回、お世話になったのが、㈱巡りの環の代表、阿部さん。巡りの環は、海士町の移住者増加の大きなドライブのひとつとも言える「島の学校」だ。阿部さんは、京大出身、トヨタを退職して海士町で起業したというエリート!…と、感じさせない(いい意味で!)素朴な温かさがある。(夢の中でしかあったことないけど)なんだかイヌイットのような印象。柔らかさと、熱さを兼ね備えた、ものすごい安定感のある方だった。ちなみに、写真の後ろが、巡りの環の素敵オフィス。打ち合わせは、畳に座布団、蚊取り線香が香りを演出、というスタイル。

阿部さんと
巡りの輪の事業は多岐に渡るので、詳しい解説は公式ウェブサイトにゆずる(非常にわかりやすいです!)が、環境が循環し、人の想いやご縁が巡る、それをひとつひとつつなげて、社会をちょっとよくしていくお手伝いをしている会社だ。島での新事業やイベント企画、島の情報発信などと合わせて、企業や団体の研修受け入れをしている。島の資産(人材、産業)を活かして、地域コーディネートや、問題解決について学ぶという実践的なもの。島の人にも刺激になるし、企業の人は普段接する機会のない、思いっ切り地に根を張って生きている人たちとの交わりから、何かを感じ、学び取り、取り戻して行く。そんなイメージだ。

巡りの環(出典:巡りの環

中央図書館
まずお邪魔したのが巡りの環オフィスのすぐ近くに、ある中央図書館。海士町には公設の図書館がなかったため、島の各所に本棚を置いて図書館代わりにする「島まるごと図書館」というプロジェクトを行ってきたが、この施設は2010年にその拠点として開設したものだそう。中央図書館

雑誌も多く、感度の高いラインナップだ。さすがにまちづくり系の本の充実度も高い。セルフのコーヒー・紅茶もいれられて、一面に広がる畑を眺めながらゆっくり読書できる。都会的な感覚なのかもしれないが、田舎を色々まわっていて、「ここは住める」と確信するのは、意外にも、町にこういうお仕事空間があることだったりする。

中央図書館

観光協会訪問
次に、島の入口、港にあるキンニャモニャセンター内、観光協会へ。町役場の美しい村ご担当者、青山さんにお話を伺うことができた。海士町って、なんかすごいらしいけど、詳細はよく知らない。という方、私も含め、意外と多いのでは?少々長くなるが、青山さんからの情報をもとに、主要プロジェクト列挙してみよう。

キンニャモニャセンター観光の拠点、島の入口でもあるキンニャモニャ・センター

CAS導入、岩牡蠣 春香
現在では教育分野で注目を集めつつあるが、当初、海士町の地域活性化は「ものづくり」から始まったそうだ。海士町の海産物は奈良時代から朝廷への献上品となっていたといわれるほど、海産物が美味しく、水産業が主要産業の一つだ。しかし、消費地から離れているため、せっかくいいものがとれても、鮮度が落ち、輸送にはコストがかかる。これを克服したのがCASの導入だ。CASは細胞を壊さず、鮮度を保ったまま冷凍する技術を備えた冷凍庫。保々見湾という殆ど人家のない湾で、3年かけて育てた(普通の養殖は1.5年)岩牡蠣を「春香」としてブランド化し、CASで美味しさを閉じ込めて、首都圏に出荷している。

CASセンターCAS凍結センター

隠岐牛
隠岐牛プロジェクトの発端は、島で建設業を営んでいた方が、木屑の活用法を模索する中で、ヨーロッパでの木屑の堆肥化と、それを農業に活用した循環型の社会に感動して畜産への参入を決めたことだったという。海士町の酪農は、それまで各地のブランド牛の子牛を育てる酪農家が多かったが、それをベースに、この島のミネラル豊富な牧草や島産の飼料で育った牛を、新たに隠岐牛ブランドとして確立した。堆肥を使った農業等、安心安全な循環型農業にも取り組み始めているという。

隠岐牛絶景をながめながらのんびり草を食む隠岐牛を発見

ものづくりのポイント
このように、海士町では、ある一つの「商品」というよりは「ブランド」ひいては「産業」を生み出してきた。しかし、多くの自治体が6次産業化に取り組んでいる中、なぜ海士町はうまくいっているのか?青山さん曰く、ポイントは「全部自分たちでやること」らしい。系統(農協や漁協)を通すと、コストがかかる。それを自分たちでやってしまえば、その分雇用も生まれる、とポジティブに捉える。コンサルもつかわず、春香も隠岐牛も多くのサンプルを自分たちでテイスティングし、研究開発も市場調査も、島の人たちでやったそうだ。当たり前のことではあるが、言うは易し、行うはそうとう難いことである。

ひとづくり
ものづくりが一定の成果を出し始めた頃、次に取り組むべき課題が「ひとづくり」だった。人口流出が激しい海士町では、高校が廃校の危機にあった。廃校になれば、高校生になったら島外に出なければならず、人口の更なる流出が起こる他、家計負担も大きくなる。そこで、島外から高校生を受け入れる「島留学」を開始。この島は半農半漁で、綺麗な水もあるため、ほぼ自給自足生活できる。つまり、小さな社会がそこにある。それを活かして、島を丸ごとキャンパスにして、地域総あげで教育を行うことで特色を出して行ったのだ。

海士町の田んぼ半農半漁の島だから、ちょっと中に入る意外なくらい、平らな田んぼもひろがっている。

学習センター
とはいえ、島では質の高い教育が受けられない、というのが常識となっていた。それをカバーする取り組みとして学習センターが設置された。小学校から高校生まで一貫して、学習支援をする、いわば公設の塾のようなもの。しかし、ただの学習塾ではない。町のヘッドハントにより移住してきた豊田さんと藤岡さんという、その道のプロ達が指導に辺り、高校と連携してカリキュラムを工夫する他、「夢ゼミ」という、キャリアデザイン、生き方のコーチングまであるのだ!!なんと贅沢な高校生活。ちょっとうらやましいくらいだ。

島前高校

 海士町に火がついた背景

なぜ、海士町ではこんなに色々コトが起こっているのか?掘り下げてお聞きしていくと、意外なことに地元の青年団が一役買っていたようだ。青年団とは日本各地にあって、その地域の若者(といっても若手が60歳なんて話も聞くが…)が所属し、祭の準備や自警など、地域に密着した活動をする組合だ。様々な業種の人が集まり、地域をなんとかせにゃならん、という一つのベクトルで、町と関わる。半強制的で、泥臭さ、面倒臭さが漂う青年団という組織は、日本中の地域からどんどん姿を消しつつあるが、昔からある地縁でのこういうネットワークは、やっぱり強い、と妙な納得感を得る。

高齢化、人口減少等、何かと問題先進県と言われる島根県の離島にあって、青山さんたちの世代の青年団は、平成のはじめくらいから「お前らどうするんだ」と島の年配者からプレッシャーをかけられていたそうだ。そこに山内町長の登場。財政的な危機を自らの給与を50%カットして乗り切る姿勢、そして「私が責任を取るから、なんでもやってみなさい」と、どんなチャレンジもサポートする意気込みが役場の職員にも伝わり、何でもやってみようという機運が高まった。そこで、あれこれ経験値を積んだ中からできてきたプロジェクトも多いのだそう。

海士町は行政主導だと聞くが、どうやら行政と民間の立場、なんてことより、みんな一丸となって地域をよくしていく。その中で、行政ができることはベストを尽くしてサポートする。そんな印象を受けた。

ないものはない潔いキャッチフレーズ!でも、必要なものは全てある。とつづく。

移住者を惹き付ける一番の魅力
青山さんのお話が面白過ぎて、2時間以上も聞き入ってしまった。最後に、「今、こんなことを話し合っているんだ」と、ミーティングしたてほやほやの資料を見せてくれ、あれこれ、考えていることを妄想ベースで教えてくれた。つい「これどうですか?」「私ならこれができます!」と、提案したくなる。

上に色々プロジェクトを書きつらねたが、海士町の移住者が多い肝は、たぶんここにある。見ず知らずの旅人である私が突然アポを入れても時間を割いてくれ、真剣に夢を語ってくれる。「私でもなにかできそう」と、自分も既に島の一員であるかもしれないという錯覚に陥る。

対応は、365日24時間。漁業に興味がある、という移住希望者がいれば、朝5時からの漁に連れて行ったりすることもあるんだとか。そうやって、外の人と内の人の間にはいってあげることで、島へ入って来るハードルを低くしてあげる。どこまでが役所の仕事、というボーダーは消えてしまっているようだ。制度より、システムより、補助金より、その地道で人間味あふれるサポートが、移住者に「受け入れてもらえた」と感じさせ、彼らを惹き付ける要因の一つであることは間違いない。

青山さんお話を伺った、巻き込みの達人 青山さんと

夕食
夜は阿部さんが巡りの環のスタッフさん、CASで働くインターン生、地元の大工さんを集めてお話を聞かせてくれた。阿部さん、これも意識してなのか、この前のイベントの反省や、今取り組んでるプロジェクトの次の打ち合わせ日程など、ソトモノの私たちがいようとお構いなしに、島の人と、島の話をする。こうやって、場を共有して、島の日常の一端を覗かせてもらうことで、さらに島が身近な存在になっていくんだろう。

 

海士町の贅沢な朝食
翌日は、魚釣りから1日をスタート!眠い目をこすりこすり、釣りスポットに到着。が、しかし!エサがないことに気づく。ガーン…と、顔に書いてあったのだろうか、そこで釣りをしていたおじちゃんが、エサも、竿も貸してくれた。なんて親切なんだ。あとから阿部さんにきけば、釣り名人のおじちゃんだそう。

釣り竿の先に金網のバケツをくっつけて釣る、サビキ釣りに初めて挑戦したが、これが、面白いほど釣れる!朝食は釣ったアジをなめろうにして、小さな鯛はお味噌汁に。自分が釣った魚を食べられるなんて、島生活の醍醐味〜!!楽しい!!

朝食

美しい村認定理由の菱浦
最後になってしまったが、美しい村の認定ポイントを回った。海士町の美しい村認定理由は2つ。ラフカディオ・ハーンが愛したという菱浦湾の風景と、隠岐島前神楽だそうだ。菱浦湾は、ちょうど島の高台にある、島前高校への上り道から見渡すことができた。深くえぐれた入り江は穏やかで、空や山が映り込んだのだろうか、ハーンは鏡浦と呼んだらしい。といっても、それ以外に、もっと美しい場所がこの島にはもっとたくさんあると思うが….。

菱浦神楽はお祭りでしか見ることはできない。が、阿部さんが編集に関わっている「海士伝」という冊子で、神楽が大好きな女の子の話を読んだ。女性が不可欠な神楽であることも、その特徴らしい。海士伝は島に住む色々な人たちの話をそのまま聞き書きした冊子だ。こういう長期的、かつ文化的、すぐに成果が見えるわけではないけれど島にとって重要な、地に足の着いたプロジェクトも同時並行的に進んでいることもとても素晴らしい。

海士の自然
駆け足でしたが、海士町の自然も楽しんできました。やっぱり、島は海が綺麗!写真は明屋海岸(あきや)、この鮮やかなコバルトブルー!!本州ではなかなかお目にかかれません。明屋海岸

夕日に映える、島の南端、木路ヶ崎の灯台。海士町は外周約90kmと案外大きいので、車でないと移動は大変(サイクリングがお目当ての場合は、それはそれでとっても気持ちがいいと思いますが)。集落と集落の間もけっこう離れているため、この辺りは、また中心部とは気質が違うといいます。

木路ヶ崎
最後にフェリーターミナル横で隠岐牛をいただく。気がはやって、写真がブレブレなことにも気づかず。焼き肉をモリモリ。

隠岐牛
まとめ
最近はインターネットで色々な情報を得られるようになったけど、その町の空気感っていうのは、やっぱり行って人に会ってみないとわからない。海士町については、来る前に持っていた、やや派手なイメージが払拭された。実際はかなり堅実だ。町の人は、こんなに町づくりの成功事例としてもてはやされていても、全然浮かれていない。それどころか、人一倍強い危機感をもって、常に次の一手を真剣に考え続けていた。移住者の増加が目的化する風潮がある中で、海士町の場合、Iターン者の増加は、島の人が幸せに暮らして行けることを考えて島経営をした結果論に過ぎないのだろう。これからは、青山さんをはじめとした暗黙の強いつながりがある青年団世代の次の担い手に、がどんな風にバトンを受け取っていくのか。引き続き注目の島である。

おまけ

離島キッチン
本稿を読んで、海士町に行きたくなってしまったあなた!東武鉄道G×海士町のコラボでオープンした、浅草の「離島キッチン」で、海士町の食材が楽しめるそうですよ〜^^


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