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照葉大橋

DAY91 美しい村連合・宮崎県 綾町 日本一の照葉樹林と循環型自然農法 インターネットでは検索できない哲学のある町の魅力


宮崎県 綾町(あやちょう)。以前から名前を聞いたことのある町だった。なにやら「森が」有名らしいが、具体的にどんな町なのか、訪問するまで知らなかった。wikipediaによると、

「有機農業の町」、「照葉樹林都市」などをスローガンとする町おこしの成功例として知られ、自然の中での人間らしい生活を求める全国各地からの移住者が後を絶たない。

とあるが、「綾町」で検索しても、ヒットするのは、役所や観光協会のページ、各施設のページなどなど…何の変哲もない検索結果だ。

綾町地図(出典:wikipedia 濃い黄が綾町)


まちづくりで注目を集めている町の場合、例えば「神山町」「海士町」というキーワードで検索すると、かなり上の方に、ウェブマガジンの記事がヒッ トすることが多い。それは一つの注目度の指標だと思うのだが、綾町にその気配は全くなかった。しかし、綾町の場合、そこで「なんだ、大したことないのか な」などと判断しては道を誤る。最近は何でもウェブで検索できるようになったから実際に足を運ばなくてもだいたいのことはわかると思いがちだが、やはりいかなければわからない。綾町ではそれを思い知ることとなった。

綾の森

ランチ@山路
今思えば失礼極まりない、そんな何も知らない状態でノコノコ「綾町について教えてください」と、今回案内をお願いしたのが、役所の鶴田さんだった。予定がいっぱいのところ、無理をしてランチミーティングをセットしてくださった。連れて行っていただいた先が、レストラン山路。地場産の食材をふんだんにつかったお料理が楽しめる。しかし、実は鶴田さんの話に集中してしまって…全体的においしかったという印象はあるものの、具体的にあまり味を覚えていない(^^;)とにかく、ボリューム満点だったことは間違いない。

山路のランチ

鶴田さんは、もともと綾町ではなく、宮崎県内の別の町のご出身。大学時代の研究テーマが綾町だったのがきっかけで、その魅力を知り、ついに役場に勤めることにしてしまったという、熱烈な綾町ファンである。やっぱり、その町を好きな方から紹介を受けるというのはいい。溢れんばかりの想いとともに、色々なインフォメーションをいただき、短い滞在ながら、とてもよい体験をできたのは、ひとえに鶴田さんのお陰である。

鶴田さんと

照葉大吊橋(てるはおおつりばし)
天気が悪い日だったが、一瞬の晴れ間を狙って、まず向かったのが綾町の大吊り橋。綾町は綾南川と綾北川の間に位置しており、吊り橋は綾南川にかかっている。建設された1984年当初は歩行者専用の吊り橋で日本一の高さを誇った巨大な吊り橋だ。2010年に架け替えの工事が行われ、より、下が透けて見える部分が増え、スリルがアップしたという。

綾町内地図
十津川、祖谷で、木製の今にも壊れそうな橋を渡ってきた我々にとって、鉄筋であるというだけで、相当の安心感を得ることができる。ものの、やっぱり怖い。どうして人間の想像力というのは勝手に働いてしまうのだろう。「もし落ちたら…」と思うと、足がすくんだ。

この橋の先に、道はない。ただ、この橋は綾町の誇る照葉樹林の山の中に、まっすぐと続いているのだ。正確には山の中に遊歩道があるので、その言い方は語弊があるが、何を言いたいかと言うと、この吊り橋は、どこかに行くのが目的でつくられたのでも、橋自体に価値があるわけでもない。普段は見られない角度から、この照葉樹林を見てほしいという想いでつくられた、いわば観客席なのである。

照葉大吊り橋

最終セレクションで知床、小笠原、屋久島が選ばれたものの、日本初の世界遺産登録の際、ファイナリスト5つまで勝ち残ったという、綾の照葉樹林。約1.5万haの世界でも最大級の照葉樹林がまとまって残っている。日本は山が多い。日本一周中、高速道路以外は殆ど山道を走っていたといっても過言ではない。それが、自然豊かな風景かといえばまったくそうではない。日本には、スギ・ヒノキの不自然に緑一色の塊が、不格好にこびりついている山ばかりなのには正直驚いた(日本の人工林の約8割がスギ・ヒノキ・カラマツの3種)。短絡的な農水省の植林施策は花粉症患者を増やすだけでなく、日本の景観も破壊してしまった。制度が間接的に景観をかたちづくる(あるいは壊す)最もよいサンプルのひとつといえるだろう。

日本の森林の状況(出典:林野庁ウェブサイト


照葉樹林が残った理由
そんな中、綾には淡い緑や濃い緑のブロッコリーのようなもこもこの照葉樹林が広がる。なぜ、綾には手つかずの形で森林が残ったのか?裕福だったため、補助金を投入して植林する必要がなかったのだろうか?否、それとはまったく反対なのである。綾町は以前、県下でも最悪の財政状況で「夜逃げの町」と揶揄されるほど貧しかった。そんな綾にも高度経済成長期にはいり、営林署から国有林伐採の話が舞い込む(というより、国策として実施する旨、通知があったという方が正しい)。しかし、当時、着任2ヶ月だった郷田實町長は伐採に断固反対した。伐採して木材を買い取ってもらえれば林業者も財政も潤うというもの。にも関わらず、自然環境を守ることを主張したのだ。

綾の森
「豊かさ」が、まだ物質的な尺度でしかなかった時代に、郷田さんの環境を守るという主張を理解してもらうのは非常に困難なことだったに違いない。しかし、理論武装するために、郷田さんは殆ど寝ずに、必死で森のことを勉強した。そして、多くの生物によって森の生態系は循環しており、それを壊すことで森は持続可能性を失ってしまうということを知り、説得力を持って反対運動へとつながっていった。

綾の森

手づくりほんものセンター

森だけではない。郷田さんはその理論を農業にも活かし、土壌を豊かにすることで農薬ではなく自然の循環の力を取り戻すことで美味しく安全な野菜をつくろうと「自然生態系農業」を提唱。言うだけではダメ、やって実感しなければ、ということで「一坪菜園」という取り組みを開始。町民に野菜の種を配り、農薬をつかわず、市民農園や庭の一角で色々なものを育ててもらう。あまったものは近所で交換し合い、町のみんなの力で、みんなの食生活を守る…そうこうしているうちに、綾のよい土で育てた安全でおいしい野菜を一度出荷し、町民は市場を通って高値でそれを買い戻すというのは変な話だ、直接つくったものを買えるようにしようと、青空市場がオープン。こうして、現在の「産直」のシステムは綾町で産声を上げた。以降、道の駅や産直のモデルとなり、多くの視察を受け入れることとなったそうだ。

手づくり本物センター
その後、綾町は日本で初めて「自然生態系農業の推進に関する条例」により、有機農業を条例化した。今聞いてもなかなか先進的な取り組みだが、驚くのはこれが40年以上前からの取り組みだということだ。なんと、一坪菜園は1971年(昭和46)、条例化は1988年(昭和63)のことである。日本の有機JAS認定ができたのが2000年だから、綾町はそれより30年も前から有機農法に着目していたこととなる。

手づくりほんものセンターその後、手づくりほんものセンターに産直機能を移管。センターの壁には、土壌の管理状況や農薬使用に応じ、条例で定められている「金」「銀」「銅」の栽培基準が掲げられている。この基準も国が有機の認証を制定する前から運用されている厳格なもの。綾町は、アルケッチャーノで有名な山形県鶴岡市と並び、市町村としては日本で2つだけの有機JASの登録認定機関となっている(2014年現在)。綾の野菜
ちなみに、手づくりほんものセンターは、有機野菜の産直だけでなく、町民の手づくり品であればなんでも販売することが可能だ。こうして発表や販売の場をつくることで、手づくりの技が息づく豊かな暮らしを目指している。

クラフトの城
手づくりへのこだわりは野菜だけではない。綾は工芸家の町としても知られており、藍、木工、陶芸などなど、現在40を超える様々な工芸家が工房を構えている。工芸の町となったのにも黒木さんというスーパー公務員の秘話があるわけだが、今回は工房をまわれなかったので、それはまた別の機会に。クラフトの城では、綾の工芸家のほとんど全ての作品を見ることができる。工房毎に作品が展示されているので、気にいった作家の工房を訪ねてみるのも面白い。隣には体験施設も併設しており、プロから指導してもらえるのだとか!

クラフトの城
綾城
綾城はクラフトの城のすぐ隣。おもしろいのが、この城、復元でも、本物でもなく、研究会が視察を重ねた結果、中世の城はこんな感じだったのだろいうという想定のもと建てられたものなのだそうだ。城は敵からの攻撃を避けるため、絵図に現すことは極力避けられていたので、ここに城があったという記述以外に、何も資料が残っていないというのだ。日本中に、案外そういう城は多いらしい。地元の建築関係者を総動員し、立派な綾の木材だけでつくられた贅沢な城だ。

綾城
この城についても、郷田さんの面白いエピソードを聞いた。兼ねてより、曲がったことが大嫌いな郷田町長。綾城の建設当初、木造での2階建て以上の建築は認められていなかったため、やっと製図したのに建築許可が降りないということが判明。しかし「昔の城はみなこうして建っていたんだから安全性に問題あるはずがない」と、不適格なまま建設を続行したという。結果、数年の後に建築基準法が緩和されたために、現在は違法建築ではなくなっているそうだ。

綾城から
綾城から綾を一望できる。しかし、ここは見晴らし台として整備されたわけではない。郷田さんは、綾の子供達に城を見て育ってほしい。大人になっても、ふる里をこの城とともに思い出してくれるようなシンボルとして、城を再建したのだという。環境保護、有機農法に、シビックプライド…郷田町長はなんて先見の明のある方だったのだろう。

オーガニックごうだ
ここまで書いてきた話は、ほとんどオーガニックごうだの郷田美紀子さんからお聞きしたものだ。美紀子さんは郷田實町長の娘さん。薬剤師として調剤薬局を経営している。併せて、身体を煩って薬に頼る前に、普段から免疫力を高める、よい食材でよい食事をと、薬局の隣に薬膳カフェをオープンしたそうだ。私たちは、鶴田さんのお取り計らいにより、幸いにもカフェ裏で、これまた美紀子さんが経営されているロッジに宿泊させてもらうことができた。朝ご飯に宮崎名物の冷や汁が、ものすごい美味しさだった。野菜もいちいち美味しい上、いりこ出汁と胡麻のお汁のうまみが濃い。

冷や汁

美紀子さんは、元町長の故・郷田實さんが育てあげた綾を守るという使命感からではなく、「私は私」と思って、時には反発しながら生きてきたという。しかし、結局、身体と食の関係を突き詰めて考えるうち、やはり自然の素晴らしさに行き着いた。そして、綾の森に高圧電線が建てられるという計画を知ったとき、やはり、綾の森を守らねばと、綾町の為に動き出すことになる。世界遺産登録することで、計画の中止を測ったが、様々な力がはたらき、結局、計画を食い止めることはできなかったそうだが、一連の運動を通して、實さんの気持ちがわかるようになった気がする、という。詳しくは實さんとの共著、「結いの心」に書かれているので、實さんと美紀子さんの言葉で直接読んでほしい。

美紀子さんと
事前に予約すれば2泊3日ゆったり滞在して、美紀子さんの食事をいただき、デトックスするというプログラムを体験できるそうだ。美紀子さんは真っすぐで、あたたかく、強くて、美しい。とても忙しいの に、ひとりひとりとのご縁をすごく大切にされていて、お話ししていると暖炉の火を囲みながらじんわり、心を通わせているような気持ちになる。そんな美紀子さんの生き方に触れ、多くの滞在者が、何か大切なことを思い出して帰るような場所のようだ。
馬事公苑

酒泉の杜
綾には食に敏感な人が集まっているだけあって、おいしいものには事欠かないようだ。前日、高原で綾について聞いたところ「酒泉の杜」に行けばタダでたくさん飲めて、一日楽しめると聞いた。酒泉の杜では綾産のワインや、隣にある雲海酒造の焼酎の試飲コーナーが充実している。併設されている世界的に有名というガラス工芸の黒木さんの工房も必見。

酒泉の杜
宮崎県のお土産と言えば「チーマン」こと、チーズ饅頭らしいのだが、鶴田さん曰く、酒泉の杜の焼きたてチーズ饅頭が一番美味しいという。

チーズ饅頭

福富ファームガーデン
福富農園はもともと農家なのだが、おいしい野菜をここで味わってほしいと畑の真ん中にカフェを建てたのだそう。鶴田さんのおすすめは、福富ファームのにんじんジュース。あまい人参を思い浮かべていたけれど、、んっ!?これは本物。ほのかな甘味があるが、本当に人参をただ搾っただけ。お砂糖は全く入れていないという。畑をそのまま頂いている気分になれる一品。綾牛も食べられます!

福富ファームガーデン
地鶏 城平

宮崎と言えば、地鶏。これまた鶴田さんに教えていただいた、おいしい地鶏料理のお店が城平だ。少し中心部から離れたとこにある古民家を改装した素敵なお店。ものすごい弾力の地鶏を、目の前の炭火で焼きながらいただく。これは日本一周色々食べた中でも屈指のおいしさだった。お肉には柔らかさばかりを求める傾向があるけれど、噛みごたえもそれに匹敵する美味しさの基準だと思う。

綾地鶏

綾の旅札
最後に、綾の「旅札」をご紹介。綾をぐるっと楽しむなら、この旅札がおすすめ。照葉大吊り橋と綾城の入場券がセットになって、1,000円。さらに、綾町内27店舗・施設で特典を楽しめる。入浴券や、レンタサイクル、工芸体験100円引きなどなど。私たちはほんものセンター横でほんものミニアイスと、大山食品で有機のお酢をゲット。このチケットがあることで、色々な場所を巡るきっかけとなって面白いので、とってもおすすめです^^

ほんものアイス

所感
綾町はこんなに豊かで、面白い場所なのに、ウェブにはほとんどまとまった情報が出こない。インターネットにお世話になりっぱなし世代の私としては、このギャップがとても新鮮だった。綾町がニュース性をもって伝えられる革新的な取り組みをしていたのは、きっとインターネットが普及する以前のこと。それが、既に持続的なサイクルに入りつつある町なのだろう。と、すると、30〜40年前のまちづくりの有名事例が、現在どんなかたちで実を結んでいるのか。ウェブ上での注目度は低くても、いわゆるリア充な自治体というのがあるんだろう。追跡調査するのはかなりおもしろそうな気がする。

日本を一周回っていて、江戸時代の藩主や代官の地域振興策が、現在の産業や文化に大きな影響を与えているという例は数多く聞いた。が、昭和に入ってこの方、後世に語り継がれるような名リーダーがどれだけいるだろうか。郷田さんは、明らかに綾の歴史を塗り替えた人物であり、亡くなった今でもその哲学が町につら抜かれている希有な例である。

郷田さん著作中の言葉でおもしろかったのが「住民のニーズをきくな」。聞いていてはなにも進まない。ビジョンを見せなければ、住民は選べない、というのだ。ビジョンを見せ続ければ、徐々にそれに共感する人が集まってくる。綾町はお世辞にも都会とは言えない、山奥の町だが、町のポリシーに共感した移住者が多く、文化度の高さを感じる。そんな温かく、気さくでスマートな人々に出会って魅せられ、またひとり移住する…。今後、人口減少が加速し、自治体は色々な側面で大きな決断を迫られる。その時、自治体のトップはその価値観を問われることになるだろう。哲学のあるまちづくりとはどんなものか。綾町に足を運び、その空気をぜひ感じてほしい。


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