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DAY53-1 「茅葺きの里」から蘇る日本の茅葺き。京都府南丹市・美山町北(重伝建)
京都府に「茅葺きの聖地」なる場所があるらしい。トタンに覆われた元茅葺屋根を眺めるたびにため息をもらしている全国の茅葺きファンの代わりに、聖地「京都府南丹市・美山町北」を訪問してきました。
いったいどれほどの茅葺屋根が立ち並んでいるのだろうか。白川郷や五箇山を超えるような超絶景観が待っているのか。そんなことを考えながら、南丹市へ向かいます。(ちなみに「美山町北」は、1993年12月に「山村集落」として重要伝統的建造物群保存地区(重伝建)に指定。)
斬新なトタン・コーディング茅葺き
美山町に近づくに連れて、大型の「元茅葺き屋根(現トタン屋根)」をのっけた家屋を数多く目にする。このトタンカバーは、各地の山村で見られる「とりあえずカバーしておきました」的なトタンとはひと味違い、なんだか瓦葺きのような不思議な加工が施されています。
トタンをかぶっても、さすがかやぶきの里(の近く)・・・と思いながら本拠地・美山町北へ。
これが古都(からは結構遠い)の美意識か。美山町周辺部におけるトタン・コーティング家屋。
そして、こちらが美山の茅葺き集落。たくさん立ち並んでいるものの、天気が悪いのでちょっと写真映えは良くない。
ひとつひとつの家屋も、とても上品。
茅場で「茅」について考える
ここ美山には、集落から川を隔ててすぐのところに「茅場」があります。茅葺き集落なので、当然茅(ススキ)をどこから調達してこないといけないわけだけれど、現存する茅葺き集落でも、近くに茅場が維持されている場所は数少ないのです。
この橋をわたると、美山町の茅場に到着。
これが茅場です。わかりにくいけど、茅の原料となるススキが一面に植えられている(?)様子。
ちなみに、「茅」は屋根をふく草の総称で、植物の名前ではありません。ススキや葦、カリヤスや麦わらなどが使われるそうですが、材料によって耐久性が大きく異なるそう。一番丈夫なのはススキや葦で、弱いのは麦わら。なんと屋根寿命で10倍位の差がつくそうです。
ススキの茅葺きは使い方次第で20年以上はもつそう。ススキ茅の寿命をフルに発揮してもらうためのコツは、日々のメンテナンス。具体的には「煙でいぶす」ということです。
昔は囲炉裏にずっと火が入っていたので、どんどん煙でいぶされ、屋根裏や柱が真っ黒くいぶされていた。それにより虫が入らなくなったりして長持ちしたそうな。昔の家屋はコンクリート建築に代表させる不動の静物というよりは、動物というか、日々変化するもの・育てるものであったようです。
こけむした茅葺きも味があっていい。でも、後に聞いた話だと「草の生え過ぎは、煙でいぶすのを怠っているから」とのこと。
茅葺き職人集団・美山茅葺株式会社
美山には、茅場だけでなく「茅葺き専門の会社」もあります。さすが「かやぶきの里」。
茅場からもう一度橋を渡って東に向かって歩くと、集落のはずれに表れる巨大倉庫。この中に茅が保存されているそうです。
こちらが、美山茅葺株式会社の正面。ご不在でお話は伺えなかったので、いくつかニュース記事を引用します。
まず、代表の中野誠さんのプロフィールがすごい。
1968年生。京都・美山町北(重要伝統的建造物群保存地区)で育つ。22歳の時、イギリスを訪ねヨーロッパに多くの茅葺き屋根があることに衝撃を受ける。
平成4年4月、当時わずか3人の茅葺き職人・故野々村猶一師、故山崎辰之助師 (京都府現代の名工)、山内秀一師(京都府現代の名工)の3人に弟子入り。高齢の為、隣町の職人久野卓一師、山形悦治師にも同行。5年の奉公ののち、1年間のお礼奉公。その後、岡山県明石屋根工事有限会社・故長崎芳行師(国選定技術保持者)に師事。また奈良県・隅田隆蔵氏(国選定技術保持者)、田中正光師に師事。
全国の茅葺きを守るため、世界に日本の茅葺きを伝えるため、奮闘中。また次世代への継承にも力を注ぎ若手職人を育成中。
-美山茅葺株式会社
「ごあいさつ」も圧巻。
始めた時は、20代の茅葺き職人は、全国でも数人でした。美山では50年ぶりの後継者といわれ、またマスコミ等にも取り上げられ自分でもびっくりしたことを思い出します。
茅葺き職人になるまでは、地元の農協に就職しており、「この仕事をやる。」と言った時、今は亡き祖母に「なんでいまさら・・・ やめてくれ!保証もない!雨が降ったらできひん!冬はあかん!飯も食えへん!結婚も出来ひんぞ!頼むから目を覚ませ!」と泣いて反対されました。それもそのはず。昔の人は、茅葺き職人を卑しい職業と思っている人が多かったのです。
(中略)
その後人が人を呼び、今わが社では11名の若い職人がおります。(平均年齢29歳)
本当にうれしいかぎりです。
-全文:ごあいさつ 美山茅葺株式会社
京都府のWEBには、美山茅葺所属の女性職人のインタビューも掲載されています。
茅葺きを専業とする女性は、全国でもまだほとんどいません。後輩が入ってくれたらいいのですが。 大学院で農村の伝統的建造物を学ぶ中で、茅葺きが好きになりました。文化としても風景としても。茅葺きのある風景をいつまでも残したいと思ったんです。
-茅葺(かやぶ)き職人 談・大野 沙織(25歳)
茅葺き職人集団・美山茅葺株式会社
さて、美山を訪れた際にぜひ立ち寄ってみたいのが、こちらの「小さな藍美術館」。藍染め作家の新道弘之さんの工房兼ミュージアムです。
重伝建の茅葺き建築が、藍染め工房になっています。
2階は新道さんによる世界の藍染めコレクション。茅葺家屋の屋根裏と藍染めが調和しております。
藍染めというと、ついつい「大将の前掛け」みたいなものを想像してしまうのだけれど、デザインによってかなり印象が異なる藍。
1階は工房。藍染めの現場をみることができます。藍染めもかなり興味深い工程と歴史を持っているのだけれど、ここに書くと長くなりすぎるので割愛。
東京生まれの京都育ち、そして美山に移住してきた新道さんご夫妻と。色々藍染めについて教えてくださるので、興味のある方はぜひ訪問してみてください。ちなみに英語対応も可能で、ノースカロライナからのカップルが藍染めの説明を興味深そうに聞いておりました。
干した藍。ちなみに畑に生えている藍は緑色で、まったく藍的要素がありません。不思議。
美山おもしろ農民倶楽部
おまけ。美山を訪問してお腹が空いた時はぜひこちら「美山おもしろ農民倶楽部」へ。ウッドデッキで美山の田畑を眺めながら、おいしいこだわりのソーセージが堪能できます。
キーワード京都府, 南丹市
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